第238 長野県眼科医会集談会 特別講演

「緑内障点眼治療」 ―眼圧下降とアドヒアランス、「二律背反」への対策―

吉川眼科クリニック 吉川 啓司

 緑内障治療のゴールは視野障害進行の防止であり生涯にわたる良好なQuality of vision(QOV)の確保だが、その治療は眼圧下降による視機能障害の進行のスローダウンに留まる。一方、最近の高齢化社会の現実化は緑内障臨床にも反映し、その治療期間がより長期化しており、「現在高齢者」に加えて20年後・30年後に高齢化するいわば「将来高齢者」にも注目した対応が求められている。 そこで、眼科医はまず「lower is better」を目標として眼圧コントロールに専心するが、この際、最も眼圧下降効果が良好なプロスタグランディン関連薬でも眼圧下降目標が達成できず、点眼薬がAdd onされることが明らかに増加している。一方、点眼薬がAdd onされれば、緑内障治療の「負担の増大と継続性(アドヒアランス)の低下」を招き、「将来にも注目した対応」も眼科医の空論に過ぎなくなる。すなわち、現在の緑内障点眼治療では「眼圧は、さらに、下げたい!しかし、Add onは回避したい!」の「二律背反」への対策が喫緊の課題となっている。
 さて、すでに欧米では緑内障点眼治療の柱の一つとなっており、わが国でも本年4月に上市された「配合剤」は眼圧のさらなる下降と同時に点眼薬数・点眼回数の減少が可能であり「二律背反」への対策として期待が懸る。特に、「将来高齢者」は「超」多忙世代であり、点眼数の削減による利便性の向上は、負担軽減とアドヒアランスの確保、ひいては長期的なQOVの維持にも貢献する可能性が高い。そこで、今回、これらの現場の事情を踏まえた緑内障点眼治療における「配合剤」の位置づけについて述べる。