第245回長野県眼科医会集談会・第32回信州臨床眼科研究会 特別講演

トラベクレクトミーの臨床エビデンス

福井大学眼科学教室 稲谷 大

 濾過手術の始まりは、19世紀、ドイツのVon Graefeによる周辺虹彩切除術の合併症が起源であると言われている。その後、Scheie手術などの全層濾過手術を経由して、1968年のCarinsが報告したトラベクレクトミーが誕生した。その後、5-フルオロウラシルやマイトマイシンCなどの代謝拮抗剤を併用したトラベクレクトミーがおこなわれ、1991年にKitazawaらによる前向き研究により、マイトマイシンCの優位性が報告されて以来、我が国では、マイトマイシンC併用トラベクレクトミーが普及している。マイトマイシンCを併用するトラベクレクトミーが広くおこなわれるようになり、約20年の歳月が経過したため、データの蓄積によって、術後成績や手術手順による結果の違い、術後合併症など、さまざまな臨床エビデンスがあきらかになってきた。本講演では、トラベクレクトミーの臨床エビデンスを整理して、信頼性の高いエビデンスから、都市伝説(?)のようなエビデンスまで、時間の許す限りご紹介したい。講演の最後に、最近我々が明らかにした水晶体の存在がトラベクレクトミーの術後成績に大きな影響を与えるという事実と、もう一つの代表的な緑内障術式であるトラベクロトミーの適応についても触れたい。