糖尿病網膜症(以下、網膜症)は、世界の働く世代における失明の主たる原因疾患となっている。網膜症治療の到達目標は、良好な視機能を保持したまま網膜症の鎮静化を図ることにある。Diabetic Retinopathy Studyにおいて、網膜症に対する汎網膜光凝固(以下PRP)の有効性が示され、Early Treatment Diabetic Retinopathy Studyで、PRPの適応時期が示された。しかし、最近では、視機能維持のため、より低侵襲な治療が求められている。日本糖尿病眼学会によって、無灌流領域を示す増殖前網膜症に対する選択的光凝固の有効性が再確認され、PRPより少ない凝固数で網膜症を抑えることが推奨されている。また、ステロイド局所投与や血管内皮成長因子(VEGF)の硝子体注入の併用により、黄斑浮腫をはじめとした合併症の抑制が試みらえている。さらに、マイクロパルスレーザーや短時間高出力で照射するパターンスキャン光凝固の登場により、凝固組織の選択性が向上し、より低侵襲の凝固が可能となっている。一方で、低侵襲にこだわるあまりに、網膜症の鎮静化が得られないケースが懸念されている。今後は、網膜症の病態に対応する光凝固に加えて、抗炎症治療をどのように絡ましていくかが問われている。