第255回長野県眼科医会集談会・第37回信州臨床眼科研究会 特別講演

緑内障薬物治療の最前線

秋田大学大学院医学系研究科医学専攻 病態制御医学系 眼科学講座 教授 吉冨健志

 緑内障治療の基本は眼圧下降であり、今のところエビデンスのある唯一の治療法である。そのための薬物治療として新しい薬剤、配合剤が毎年のように発売されて日々進歩している。しかし、様々な緑内障治療薬はその薬理作用が異なり、眼圧下降以外にも様々な作用がある事が知られている。日々の臨床で患者さんに処方するときに考えるのは、眼圧下降効果、副作用、患者さんのさし心地などと思われる。しかし、それぞれの薬物の薬理作用をもう一度見直してゆくことは、処方を考える上でも重要なことである。眼圧に関しても、眼圧が十分下がっているのに視野が進行する患者さんがいるかと思えば、それほど低い眼圧ではないのに全く進行しない患者さんを経験するなど、眼圧下降治療の限界を感じることがある。目の前の患者さんの眼圧をどこまで下げればよいのか、これが日々の緑内障治療の難しい点である。緑内障治療の最終目標は、患者さんが生きている限り良好な視機能を維持することにある。そこで、我々は眼圧以外にも色々なことを考えなくてはいけない。世界中で行われている他施設Studyにおいては、眼圧以外にも様々なrisk factorが挙げられている。これらの要因は、患者の経過観察や治療法選択の場面で、将来の視野進行の確率をある程度予想する手がかりとして重要な要素になる。このような様々なrisk factorも治療に当たっては考慮しなくてはならないと考えられる。また、未来の治療としては眼圧下降以外の作用機序をもつ薬剤の開発が必要になってくる。緑内障は広い意味では神経の変性疾患であり、これに対する治療は他科領域でも色々と行われている。しかし、緑内障の神経保護治療に関して基礎的実験は多数行われているが、なかなか臨床に結びつかないのが現状である。新しい薬剤の開発には新しい発想が必要である。これに関しても私の考え方を述べてみたい。