第262回長野県眼科医会集談会 特別講演

眼科領域で必要な感染対策と抗菌薬の考え方

信州大学医学部附属病院 感染制御室 金井 信一郎

 感染対策で最も重要とされているのが標準予防策であり、中でも重要なのが手指衛生である。眼科領域の感染症は基本的に接触感染によるものであり、手指を介した微生物の伝播の制御は最も重要である。手指衛生はアルコールによる手指消毒を基本とする。目で見て汚れがなければアルコールである。アルコールによる手指消毒を優先させる理由は有効性の高いことと短時間で実行可能であることなどである。アルコールによる効果が期待できない時は石けんと流水による手洗いを行う。消毒薬では汚れを落とすことができないので流涙や眼脂に触れた時には水道での手洗いを行う。眼科領域で問題となる微生物はほとんどエタノールで消毒可能であるが、アデノウイルスはエンベロープを持たないウイルスでアルコールが効きにくい。流行性角結膜炎などアデノウイルスが疑われる場合でも環境ではしっかりと拭き取ることでアルコールによる環境消毒が可能であるが、手指衛生の場合は流水と石けんによる手洗いの方が無難である。
 また、抗菌薬の不適切な使用を背景として、薬剤耐性菌が世界的に増加する一方で、新たな抗微生物薬の開発は減少しており、国際的課題となっている。日本でも抗微生物薬の使用量を減らし、微生物の薬剤耐性率を減らす薬剤耐性(AMR)対策アクションプランが2016年4月に策定されている。具体的には抗微生物薬全体で2020年までに33%減の目標が掲げられており、眼科領域でも例外でない。点眼薬ではキノロン系抗菌薬がよく使われている。キノロン系抗菌薬は広域であることで使いやすいが、耐性菌誘導しやすい抗菌薬であり、使用に関して注意が必要である。