第296回長野県眼科医会集談会  一般講演抄録

近視抑制治療のカッティングエッジ -ついに本格到来!日本の夜明け-

筑波大学医学医療系眼科准教授 平岡 孝浩

世界的に近視人口が急増し、緑内障・網膜剥離・黄斑症など失明につながる眼疾患の発症リスクが高まることが危惧されている。本邦でもICT教育やGIGAスクール構想の導入によりスクリーンタイムが増加し、高校生、中学生、小学生のいずれにおいても視力不良者が着実に増加していることが明らかにされた。将来的なQOV・QOLを守るという観点のみならず、医療経済的な側面からも社会へ及ぼす影響は極めて大きく、予防医療の重要性が叫ばれるようになってきた。つまり、学童期から積極的に介入して近視進行抑制を実施することが国際的に推奨されている。
近視抑制ストラテジーとして、遺伝・環境的なアプローチのほか薬物と光学的アプローチが挙げられる。近視遺伝子治療の実現は未だ見えてこないが、強度近視を早期に発見できる可能性が示唆されている。環境因子としては屋外活動の有効性が広く知られるようになり、台湾ではTian-Tian 120 outdoor programという政策の導入により学童近視の減少を実現した。また光学アプローチに関しても着実に進化しており、眼鏡ではDIMS®やSTELLEST®、MyoCare®など近視性デフォーカスを形成する光学デザインが開発され、RCTにおいて有望な結果が確認されている。またコントラスト理論という新たな理論に基づいたDOT®レンズも登場してきた。オルソケラトロジーの眼軸長伸長抑制効果は極めて多くの研究で確認されているが、最近では長期データも紹介されるようになり、国際的に広く普及している。多焦点CLに関しても、FDA承認やCEマークを取得したレンズが近年急増している。低濃度アトロピン点眼薬も広く使用されるようになり、近年では有効濃度の更なる検証や光学的手法との併用効果が検討されている。さらに最近ではレッドライト治療の強い近視進行抑制効果が示され、世界的な注目を集めている。その他の波長の応用として、ブルーライトやバイオレットライト照射も治験が進んでいる。
本講演では様々な近視抑制法の最新情報を提供し、本邦での承認見通しについて解説する予定である。眼科医が最も多く遭遇する近視患者への対応に関して、御聴講いただいた皆様の意識改革が進むような講演を目指したい。