第297回長野県眼科医会集談会  一般講演抄録

緑内障薬剤数の違いによるiStent inject®の1年成績の比較

信州大学眼科 高橋 良彰, 今井 章, 中山 隼, 北原 潤也, 柿原 伸次, 村田 敏規

目的
白内障手術と併施したiStent inject®線維柱帯マイクロバイパスデバイス(iStent inject)留置術において、術前緑内障点眼薬数(3剤以下 vs. 4剤以上)が術後成績に与える影響を評価する。

デザイン
傾向スコアマッチングを用いた後ろ向き観察研究。

対象
2020年11月から2023年10月までに信州大学医学部附属病院で白内障手術と同時にiStent injectを施行された299例。 年齢、性別、緑内障型、術前眼圧をマッチングし116眼(各群58眼)を解析対象とした。
方法
術前および術後1日、 1か月、 3か月、 6か月、 12か月時点で眼圧、 緑内障点眼薬数、 角膜内皮細胞密度を測定した。 術後成功は(1) 術前比20%以上の眼圧下降、 (2) 眼圧14mmHg以下、 (3) 追加緑内障手術を要しない、 の3基準すべてを満たすことと定義した。 Kaplan-Meier法およびlog-rank検定により12か月時点の生存率を評価した。

主要評価項目
術後眼圧、 点眼薬数、 12か月後の手術成功率、 角膜内皮細胞密度の変化。

結果
術前眼圧は3剤以下群で14.5±3.7mmHg、 4剤以上群で16.4±4.8mmHgと有意差があった(p=0.03)。 術後12か月の眼圧はそれぞれ10.9±2.6mmHg、 12.1±3.3mmHgであり、3剤以下群で有意に低かった(p=0.02)。 12か月後の生存率は3剤以下群90%、 4剤以上群78%で、3剤以下群の方が有意に高かった(p=0.02)。 両群とも点眼数は有意に減少したが、 4剤以上群は常に点眼数が多かった。 角膜内皮細胞密度の1年間の減少率に群間差は認められなかった(3剤以下群0.12%、 4剤以上群0.16%, p=0.73)。

結論
術前に4剤以上の緑内障点眼薬を使用していた場合、 iStent inject術後1年の成功率は低下していた。 本研究結果は4剤目を追加する前にiStent injectを検討することが患者予後改善に寄与する可能性を示唆している。